冬季初登攀!? 雲竜渓谷 アカナ沢「幻の鉄鉱泉滝」

冬季初登攀!? 雲竜渓谷 アカナ沢「幻の鉄鉱泉滝」

【活動データ】

メンバー:吉田、松永、宮崎

タイム:15時間40分

距 離:9.5km

上り↑:2011m / 下り↓:2011m

【フィールド情報】

栃木県日光市 雲竜渓谷

アカナ沢 上流域「鉄鉱泉滝」

2ピッチ 約60m

推定Rグレード:4級下~

推定Pグレード:Ⅴ-~Ⅴ

日程:日帰り~1泊2日

2020.8.22 無雪期初登攀されたとされる、アカナ沢・支沢の鉄鉱泉滝。

そもそも情報すら殆ど無く、地図上には載っていない鉄鉱泉滝。何よりも名前が格好良い。

この現代におよんでまだ未登の滝があったとは…

驚きものの木20世紀。

※『日光四十八滝を歩く』より抜粋
鉄鉱泉滝は、女峰山の壁から湧き水を落とす滝で『黒岩遙拝石』から、また赤薙山奥社跡近く、あるいは日光市街からも望むことができる。滝名は、火山性の鉄分を含んだ赤い微粒子が水に混じり、赤茶色の水として流れることから付いたよう。

2年(2シーズン)に渡る調査の末、ようやく滝の場所・氷結状態等、この目で確認し、その実態を掴んだ。そして今回、機会を狙って冬季登攀へと至ったのであった。

【鉄鉱泉滝】
下部:ナメ約100〜120m
上部:直段瀑約60m
全長:約160〜180m

冬季登攀対象は上部の約60m(2ピッチ)
※下部は一部の氷が露出しているのみで殆どが積雪で埋没。

推定グレード:Ⅴ-〜Ⅴ

《初登時》
1ピッチ:Ⅴ 約47m
2ピッチ:Ⅳ+ 約13 m

性状は、水流に薄い氷の膜が張り、その上に小さい氷柱状集合体と腐った雪氷がコーティングされたと言う感じ。表面には溶け出した水が流れ、氷は腐って行く一方。また、スクリューを決める場所もかなり選び、決まっても効きが怪しく見た目より格段に悪い。無雪期でも悪絶な滝という情報ですが、積雪期も十分に悪い滝であった。

※以下、初登時の感想。

1P 約47m Ⅴ-~Ⅴ (Lead climber:zaki) 

 氷瀑からは終始滝の流れるBGMが聞こえてくる。氷の性状は、滝の表面に薄い氷の膜が張りその周囲を小さな氷柱の集合体と流れ落ちる水を吸って腐った雪氷が群を成し、そっと腰を据えている状態である。そんな、御洒落かつ繊細な化粧と着衣を纏った氷瀑は、高飛車でサディスティックな女性という表現が適切だろうか。アックスを打つ場所、スクリューとアイゼンを決める場所までも、振り回すかの如く指定してくるため、慎重にならざるおえなかった。また、スクリューは刺さっても最初のみで、奥に入るにつれ空転することもしばしば。そして、鉄鉱泉滝は南西面を向いているため、氷瀑は時間の経過とともに脆弱化してゆく。

近づくとその悪さが理解できる… (Second climber:Matsunaga) 

「悪い…」の一言。

 白く美しいフリル付きスカートを身に纏った繊細な氷瀑に翻弄されつつ、1ピッチ約47mをなんとか直登。しかし、1段目を乗り越して支点構築にとりかかろうとするも、再び氷瀑のサディズムに四苦八苦。傾斜は緩まるが日当たりは良好で氷は更に薄く、腐った雪が乗っている程度であった。結果的には、右岸の日陰部分の雪の中に埋没していた氷があったため、そこにスクリュー2本とアバラコフを決め、更にダブルアックスという精神安定剤も添えてピッチを切った。1ピッチ目の精神的ダメージは想像を遥かに超えていた。グレード的にはⅤ-~Ⅴ程度なのだが、正直なところ、メジャーな場所のバーティカル氷瀑でも登っていた方がよっぽど容易なのではないか思ったほどである。その後は、セカンドの松永氏とサードの吉田氏を慎重にビレイつつ引き上げ、皆声をそろえて「悪い!」と暫しの談笑を交わした。

1P 落ち口 (Third climber:Yoshida)

2ピッチ目は、1ピッチ目に比べると気持ちもだいぶ楽になったが、相変わらず素晴らしいほどのグズグズ氷。早く切り抜けたい一心で駆け抜けたのだが、最後の約5mバーティカルからの乗り越し部分にトラップが仕掛けられていた。

2P 約13m Ⅳ+ 最後の流心部分がバーティカル

アックスを打つと穴が開いた…。こりゃ、スクリュー効かんでしょ!?参った…

アックスを打ち込むと氷瀑に大きな穴が空いて滝が露出した。「噓でしょ…」心の声を漏らしながら、右岸に近い部分の雪が乗り気持ち厚みのある氷にスクリューを決め、肝を冷やしつつ何とかトップアウト。

冬季登攀、成功! 「翼さぁーん、やったどー!!」の図

上部の灌木に無雪期・初登攀のプレートとシュリンケを確認した時は流石に安堵した。ようやくスリル満点の繊細な登攀が終了し、高飛車な氷瀑との和解が成立したのであった。その後は、念願の初登攀・全員での記念写真(1名負傷・療養中のため写真で参加)を撮影し、今回の任務は無事に達成された。

離脱は50mダブルロープにて、灌木とアバラコフ1回を交えて計2回の懸垂で取り付きへ。

 ここまで来るのに2年の歳月を費やした。調査開始当初は、「雲竜渓谷の上流域には物凄い滝群が存在する。」「是非とも、その滝群の氷結をこの目で見てみたい。」そんな単純な好奇心であった。冬の雲竜渓谷に通い詰め、Y字峡、七滝沢、アカナ沢と調査を重ねる過程で『鉄鉱泉滝』とうアカナ沢・支沢に大きな滝が存在する事実を知った。そこから、その好奇心は次第に凄まじい熱量を持った探求心へと変わり、いつしか執念とも言えるものに変わっていた。並行して、鉄鉱泉滝の無雪期・初登攀を知り、「冬季こそは我々が成し遂げるしかない。」そう誓った。その後も地道に調査を重ね、正確な位置、氷結状態等の実態を掴み、冬季のアプローチ方法や登攀の作戦を練った上で、今回実行へと踏み切ったのであった。

名残惜しきも鉄鉱泉滝をあとに…。我々のロマンは確かに、ここに存在した。

行動時間15時間半以上にも渡るハードな行程であったが、費やした時間と労力に比例してその達成感は大きいものであった。今後の我々の活動においての良い景気付けになったに違いない。

アカナ沢上流域の様子。

しかし、今回の『鉄鉱泉滝』冬季初登攀は、雲竜渓谷・上流域エリア開拓の序章にすぎない。登攀こそできていない氷瀑や氷結した染み出しは幾つかあるが、七滝沢、アカナ沢における調査・登攀は、既に8~9割を終えている。今後において、紹介する機会があれば紹介したいと思う。

海外の写真で見るような規模と世界観。

「我々の活動は終わらない、冒険は続く。」